野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
3. 主な果物の生理機能
k. ブルーベリー
ブルーベリーには果物・野菜類の中でも、特に抗酸化作用の強い化合物が豊富に含まれており 1)、 多くの研究者がこの点に着目して、機能性に関する研究が盛んに行われています。ブルーベリーにはアントシアニンをはじめとするポリフェノールが豊富に含まれていますが、これらアントシアニン類の抗酸化作用 2), 3), 4), 5)、 乳腺腫瘍や血管内皮種、大腸腺腫等に対する抗腫瘍作作用等が報告されています 6), 7), 8), 9), 10)。 その他にも循環器系に対する作用として、自然発症高血圧ラットを用いた実験から、ブルーベリーエキスが自然発症高血圧ラットの血圧上昇を有意に抑制するとの研究結果も報告されています 11)。 これにはブルーベリー中のアントシアニン類が血管内皮細胞に直接作用して血管平滑筋における収縮弛緩反応に影響を及ぼしていることが明らかにされています 12) 13) 14)。
また、最近では、心筋梗塞モデルラットを用いた実験から、ブルーベリーが心筋梗塞などの心血管系疾患に対して有用である可能性が示唆されています 15), 16)。 その他にも抗糖尿病作用も報告されており 17), 18)、 最近の研究から、アントシアニン類の中でも特にマルビジン-3-O-グルコシドに強い血糖降下作用のあることが明らかにされています 19)。
このように様々な生理機能を有するブルーベリーですが、何れもアントシアニン類の有する強力な抗酸化作用によるものと考えられており、また実際にヒト試験においてもブルーベリーを投与することで血中の抗酸化能が上昇することが報告されています 20)。 このようなことから、ブルーベリーはがんや高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防に有効ではないかと考えられます。またその他にも、最近では骨粗鬆症モデルの一つとされる卵巣摘出ラットの骨密度低下をブルーベリーエキスが有意に抑制したとする結果も報告されています 21)。
一方、ブルーベリーについては中枢神経系に対する効果について多くの研究が行われているのが特徴です。近年の研究から、ブルーベリーエキスを長期間摂取させたラットでは、老化にともなう脳神経機能の障害を顕著に抑制することが明らかとなっています 22), 23), 24), 25), 26)。 このメカニズムとして、老化に伴う脳の高次機能低下には酸化ストレスが大きく関与していることが近年明らかになりつつありますが、この酸化ストレスに対してブルーベリーに豊富に含まれるアントシアニン類等が抑制的に働いているものと考えられます。また近年では、脳梗塞モデルの一つである虚血-再灌流モデルや海馬にカイニン酸を投与することで誘発される神経細胞障害とそれに伴う記憶学習障害をブルーベリーが顕著に抑制することが明らかになりました 27) 28) 29)。
更に遺伝子改変を行ったアルツハイマー病態モデルマウスに対する記憶学習能の改善効果 30)、 移植した線条体や海馬の神経細胞生存維持効果 31) 32) 33)、 最近ではβ-アミロイドタンパクの凝集抑制効果などが明らかになっています 34)。 このようにブルーベリーには中枢神経系に対して優れた効果を有することが多くの研究から明らかとなってきましたが、最近ではブルーベリーに含まれる幾つかのアントシアニン類が血液-脳関門を通過し、脳組織中に存在することも明らかにされています 35), 36)。 このことからブルーベリーの効果はアントシアニン類が脳内に到達して直接神経細胞に対して効果を発揮するのではないかと考えられます。
一方、ブルーベリー等に含まれるアントシアニンの眼に対する効果もヒト介入試験により明らかにされています 37)。
その他にも興味深い研究例としてHelicobacter pylori菌に対する抗菌作用についての報告があります 38)。 この菌は胃潰瘍の原因の一つ考えられており、またClarithromycinという抗生物質に対する薬剤耐性化が知られています。ブルーベリーエキスはHelicobacter pylori菌に対する抗菌作用ばかりでなく、Helicobacter pylori菌のClarithromycinに対する薬剤感受性も高めことが明らかになりました。更に最近ではブルーベリーの葉から単離されたプロアントシアニジンがC型肝炎ウィルスのRNA複製を抑制することも報告されました 39)。