野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
3. 主な果物の生理機能
d. ニホンナシ
ナシに多く含まれている無機成分はカリウムで、ナトリウムはほとんど含まれていません。そのため、カリウムとナトリウムの比が低く、高血圧予防に有効です。またナシにはソルビトールが果肉100gあたりおよそ0.8g含まれており、果物の中でも特に多く含まれています。ソルビトールは、低カロリーであり虫歯になりにくい糖質として知られています。
一方、がんや循環器系疾患と栄養との関わりを長期間に渡り追跡調査している米国の保健医療職従事を対象にしたハーバード大学の大規模コホート研究の中で興味深い結果が最近報告されました。この研究では、83,104名の女性について歯の健康状態と食行動を調べ心疾患発症とどのような関わりがあるかを解析しています。その結果、健康な歯の少ない女性ほど心疾患発症のリスクが高く、食行動においては飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量が多く、逆に不飽和脂肪酸や食物繊維、カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、カリウム、果物、野菜の摂取量が少なかったとしています。特に健康な歯が少ない女性ほど心疾患リスクが高くなる食行動に変化する傾向があり、ナシやリンゴ、生のニンジンなど堅い食品を避ける傾向にあったと報告しています 1)。
また最近、がんとの関係を考察した疫学研究の結果も報告されました。果物・野菜の摂取と頭頸部扁平上皮がんとの関連について約49万人を対象に調べた大規模な米国の疫学調査では、ナシを含むリンゴやモモ等のバラ科果物の摂取量が最も多いグループではリスクが0.6まで低下していました 2) 。調査対象者が最も高頻度に摂取しているバラ科の果物ではリンゴが最も多いですが大きいですが、トータルとして果物・野菜を多く摂取することが重要と述べています。更にナシ・リンゴを豊富に取り入れた食事の介入試験から、12週間で約1.22 kgの体重減少が認められたとする報告もあります 3) 。ナシやリンゴなどの食物繊維の豊富な果物がダイエットに有効かについては同じ研究グループでその後も検討され、同じ食物繊維量・同じカロリー量になるようにしたリンゴ・ナシ・えん麦クッキーの3種類の食品を、ブラジル人の肥満女性(BMIが25以上)に10週間介入した結果が最近報告されました 4) 。その結果、ナシとリンゴを介入した群では一日当たりの総摂取カロリーがそれぞれ25.1kcal、19.7kcal減少し、体重もリンゴ介入群で0.93kg、ナシ介入群で0.84kg減少したと報告しています。一方、えん麦クッキー介入群ではこれらの効果は全く認められなかったとしています。この結果から、食物繊維が豊富で重量当たりのカロリーが低いナシやリンゴはダイエットに有効としています。
また、ナシやリンゴの果皮と果肉について、in vitroレベルでの抗酸化能とコレステロール負荷したラットの血中脂質や血中抗酸化能改善効果を評価した研究では、ナシの果皮はリンゴの果肉と同程度の活性を有していること、これらの抗酸化活性にはポリフェノールの関与が大きいことを示しています 5)。