野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
3. 主な果物の生理機能
g. オウトウ(サクランボ)
オウトウ(桜桃)はバラ科サクラ属の果樹で、栽培種として広く世界に普及しているのは甘果オウトウ(セイヨウミザクラ、Prunus avium)と酸果オウトウ(スミノミザクラ、Prunus cerasus)の2種です。これ以外に中国ではカラミザクラ(Prunus pauciflora)とシロバナカラミザクラ(Prunus pseudocerasus)が固有の栽培種として存在し、これらは中国オウトウとも呼ばれます。
甘果オウトウはスイートチェリー(sweet cherry)とも呼ばれ、甘味が強く、酸味が少ないため、主に生食用にされます。酸果オウトウはサワーチェリー(sour cherry)とも呼ばれ、酸味が強く、生食に不適なため、加工用にされます。海外でジャムや果汁加工向けに栽培されているタルトチェリー(tart cherry)は酸果オウトウの品種です。
国内で生産されているサクランボあるいは輸入されているアメリカンチェリーは甘果オウトウに属します。甘果オウトウには、果肉色が乳白色の白肉種と、赤色から暗赤色の赤肉種があります。日本で栽培されている品種のほとんどは白肉種ですが、世界的に生産量が多いのは赤肉種です。
オウトウの果皮や赤肉の赤色はアントシアニンに由来します。主たる成分はシアニジンの配糖体であるシアニジン-3-O-ルチノシドで、次いで多いのが、シアニジン-3-O-グルコシドです 1) 。これらはBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)やビタミンEなどの市販の抗酸化剤に匹敵する抗酸化能を有しています。これらの成分を含むオウトウ抽出物が、プロスタグランジン生合成系の酵素の一つで、炎症や発がんに関与するシクロオキシゲナーゼの活性を抑制すること、さらに、活性酸素を生成しDNAを損傷する等の有害な働きをする過酸化脂質の生成を抑制することが示されています 2), 3)。
タルトチェリーはオウトウの中ではアントシアニン含量が最も高く、それを反映して高い抗酸化能もあります 4) 。このような果実からアントシアニンを抽出物として摂取するのではなく、食品として摂取しても健康機能性が発揮されることが動物実験レベルで示されています。Seymourらは、ラットに凍結乾燥したタルトチェリーを飼料として摂取させる実験で、タルトチェリー摂取で脂質代謝に関連する核内受容体のPPARsの働きが高まり、高脂血症や脂肪肝の症状が軽減されることを示しています 5), 6)。
オウトウから摂取した抗酸化成分がヒト体内でも活性を発揮する事例が報告されています。Traustadóttirらはヒト介入試験により、70歳前後の高齢男女にタルトチェリーのジュースを摂取させ、被験者の血清成分を分析し、タルトチェリーのジュース摂取が酸化ストレスを軽減することを示しています 7)。
アントシアニンには抗炎症作用があります 4), 8) 。激しい運動をすると筋肉が部分的に損傷し炎症を起こした状態になり、痛み(筋肉痛)を伴います。Connollyらはヒト介入試験により、タルトチェリーのジュースを摂取することで、被験者に激しい運動の負荷をかけても、筋肉の損傷を示す症状が軽減される結果を出しています 9)。
アントシアニン以外でオウトウに多い成分として糖アルコールのソルビトールがあります。オウトウの糖アルコール含量は新鮮重100gあたり2.3〜8.0g 10), 11) と豊富です。ソルビトールは難消化性で糖質より低カロリーな甘味成分で、さらに、便秘を解消する効果があることがヒト介入試験により示されています 12)。
メラトニンは脳から分泌されるホルモンの一つで、睡眠と関連していることが知られています。メラトニンは植物体にも存在する抗酸化物質でもあり、食品としてはアーモンド、ヒマワリ、カラシ等の種実類に多く含まれています 13) 。果実類ではオウトウのタルトチェリーがメラトニンを多く含みます 14)。