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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

3. 主な果物の生理機能

h. ウメ

ウメは酸味が強いことと、生の果実では青酸配糖体が含まれることから、生食されることはほとんどなく、大部分が加工食品として利用されます。加工品の代表として梅干があり、その他、梅酒、ジュース、梅肉エキス、ジャム、ゼリーなどが作られています。酸味はクエン酸とリンゴ酸を主体とする有機酸で4〜6%含まれていますが、それ以外にウメの栄養成分として取り立てて含量の高いものはありません。

未熟果を燻製にしたものを烏梅(ウバイ)と称し古来より薬用とします。何種類かの薬用とする果実の活性酸素除去作用を調べた例では、ウメ果実の水抽出エキスにもっとも強い除去作用が認められました 1), 2)。また、烏梅の水抽出物が試験管内の実験で、炎症の発現の原因となるプロスタグランジンE2や一酸化窒素の合成酵素の働きを抑えたり、これら酵素の遺伝子発現を低下させたりすることが見いだされています 3)

核内タンパク質の一つであるHMGB1は最近の研究から、炎症反応や細胞遊走を促進することで、炎症の転移を媒介する重要な因子であることが示され、自己免疫疾患やガン等の分野で注目を集めています。HMGB1が病変組織から他の部位へ移動するために細胞外に放出されるのは、壊死を起こした細胞の核内から受動的に放出される場合と、活性化されたマクロファージや血小板などから能動的に分泌される場合があります。培養細胞を用いた実験で、梅肉エキスがマクロファージからのHMGB1の放出を抑制することが見いだされています。梅肉エキスにはトリテルペノイドの一つであるオレアノール酸が含まれることが知られていますが、オレアノール酸にもこの作用は認められ、炎症の抑制剤としての利用が期待されています 4)

変異原物質にさらされたときに細胞はいろいろな反応を示しますが、ウメに含まれるクエン酸のメチルエステルに強い反応抑制がみられ、細胞の障害を抑制するのではないかと考えらます 5)。食事中に含まれる亜硝酸とアミンが、胃において発がん性のニトロソアミンの生成に関わることが知られています。亜硝酸とアミンの多い食べ物にウメ抽出物を組み合わせると、ニトロソアミンの生成が減るという報告があります 6)

また、実験動物でウメジュースの摂取により胃のピロリ菌が減少すること 7) が既に報告されていましたが、ヒトでの検討も行われていますが、1%の梅肉エキス130mlを12週間飲用する実験では、ピロリ菌の減少は確認されませんでした 8) 。ヒトでの有用性を実証するには更に詳細な検討が必要となるでしょう。一方、ピロリ菌の抑制に関しては、どのような成分が関与しているかについての検討も行われ、未熟なウメ果実に含まれるリグナンの一種であるシリンガレシノールがピロリ菌の運動を抑制することが報告されています 9)

また、ウメ果実に含まれるクマリン誘導体 10) や、梅肉エキスの脂溶性画分 11), 12), 13), 14), が試験管内で培養したがん細胞に対して増殖抑制効果を持つことが報告されています。

梅肉エキス(濃縮ウメジュース)には、試験管内実験でアンジオテンシンによる動脈平滑筋増殖を抑える作用があり、血管保護効果を持つ可能性があります 15)

ウメではありませんが同じ仲間のアーモンドの果皮が、ビタミンE、Cとの相乗作用で、LDLの抗酸化能力を高めることが試験管内実験で示されています。フラボノイドがその作用はカテキン類、フラボノール類によるとしています 16) 。肥満モデルラットやU型糖尿病モデルラットによる実験では、梅肉エキスに高血糖・脂質低下作用があることが示されています。脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンなど善玉成分が増加するためとしています 17) 。また、ウメに含まれるクロロゲン酸が、コレステロール合成系に含まれるスクワレンシンターゼを阻害することが報告されています 18) 。高コレステロール血症の場合にはこの酵素の抑制により、血漿コレステロール値、中性脂肪値の低下が期待されます。

梅肉エキスとコハク酸二ナトリウム、ソルビタンモノオレエートを一定の割合で配合した製剤がラットを用いた実験で、記憶改善および学習能力を向上させ、抗うつ剤の効果を増強することが報告されていますが、そのメカニズムや梅肉エキス中の特定の化合物の関与などについては明確にはされていません 19)

梅肉エキスについては、ラットを使った実験で運動後の疲労を緩和することも見いだされています 20) 。梅肉エキスを含む飼料で4週間飼育したラットは対照区に比べて運動負荷を与えた後の血中のアンモニア濃度および乳酸濃度が有意に低下していました。また、肝臓及び筋肉中のグリコーゲン濃度の上昇、骨格筋における乳酸脱水素酵素の活性の低下、クエン酸合成酵素の活性の上昇などが認められています。これらのことから梅肉エキスを投与したラットでは、骨格筋の酸化能力が増強し、アミノ酸や炭水化物よりも脂肪酸の酸化が優先されるようになっていると推測されています。

また、試験管内の実験ですが、梅肉エキスがA型インフルエンザウイルスの感染を抑制するのではないかという結果が示されています。これは、梅肉エキスによりインフルエンザウイルスが細胞に付着するのが抑制されるというもので、ウイルスと細胞の結合を妨害するするレクチン様の物質が梅肉エキスに含まれているためではないかと推察されています 21)

濃縮ウメジュースにはムメフラールという成分が含まれおり,クエン酸やリンゴ酸とともに血液の粘性を下げ、血を流れやすくする働きがあります 22)

(文責 尾崎 嘉彦)


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