野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
2. 主な野菜の生理機能
e. 豆類
豆類の生理機能に関しては、エンドウ豆の血糖上昇抑制、落花生(ピーナッツ)の血中脂質成分の低下などの脂質改善作用、豆類に含まれる食物繊維による腸機能の改善効果などの研究報告があります。最近では大豆に含まれる成分のはたらきが大変注目されており、2007-2009年の野菜の研究報告で最も多いのは大豆です。
2009年の大豆に関する研究報告では、大豆食、大豆タンパク、イソフラボン、大豆油、大豆抽出物、エクオルを取り扱っているものが多く、特にイソフラボンを扱っている論文が多く見られました。大豆は、ホルモン関連、更年期障害の改善、骨関連、脂質関連、炎症、ガン、神経機能との関連、さらにはバイオアベイラビリティと幅広く研究されています。
大豆は、大豆タンパク、イソフラボンの働きが特に注目されていますが、大豆にはそれ以外にもビタミンB1、ビタミンB2、大豆レシチンなど様々な有効成分が含まれております。
大豆に含まれるイソフラボンの一種であるダイゼインは腸内細菌によってエクオールという物質になります。このエクオールは、他のイソフラボンに比べ、高いエストロゲン活性を持ちます。ただし、このエクオールを作り出す腸内細菌は個人差が有り、ダイゼインからエクオールをたくさん生産出来る人は乳がんや前立腺がんに罹患するリスクが低いという報告があります。ゆえに、同じようにイソフラボンを摂取しても効果の有無は腸内細菌に左右されることが示唆されています。
落花生
アレルギー(安全性)(Flinterman AE et al., Klemola T et al. 2006)、血糖値上昇抑制に関する報告がありました。11人の健常者へ、糖の負荷の高い食事を摂取させ、これに酢あるいはピーナッツを付加したところ、食後の血糖値を減少させました。(Johnston et al. 2006)
大豆
健康な閉経後の女性93人(平均年齢56歳)に、高含量のイソフラボンを含む大豆タンパク20gを12週間投与しました。大豆タンパクは粉末状にして飲料に混ぜて与えました。その結果、血流等血管運動、体調など生活の質の向上QOL(Quality of life)が有意に改善されました(Basaria Sら2009) 1) 。
12人の健康な成人にイソフラボンの錠剤あるいは大豆食を6日間与え、血中のイソフラボンの濃度を測定しました。その結果、錠剤よりも大豆食から摂取した方が血中のイソフラボンの一種であるゲニステインの濃度が高く出ました(Gardner CDら 2009) 2) 。
大豆イソフラボンの代謝産物であるエクオルを健康な男女12人に経口投与したところ、高いバイオアベイラビリティを示しました。(Setchell KDら2009) 3) 。
腎臓を患っているU型糖尿病患者41人において大豆タンパク食の長期摂取により、空腹時血糖値、血清総コレステロール、中性脂肪、C反応性タンパク(CRP)が有意に低下しました 4) 。
大豆イソフラボン+カルシウム+ビタミンDの摂取(2年間)が閉経後の女性の骨代謝に有効に働きました 5) 。一方、高イソフラボン食摂取(1年間)は、閉経初期の女性の骨量増加、骨代謝に影響しませんでした 6) 。
大豆タンパク食、大豆ナッツ食の8週間の摂取が、42人の閉経後でメタボリックシンドロームの女性のグリセミックコントロールと脂質代謝に及ぼす影響を検討しました。大豆ナッツ摂取により、Cペプチド、LDL-コレステロール、血糖値が有意に減少しました。短期間の大豆ナッツ摂取は、グリセミックコントロールと脂質代謝改善効果が認められました 7) 。
高血圧や正常血圧の閉経後の女性の血圧に及ぼす大豆ナッツの影響を検討しました。大豆ナッツ入りの食事は、高血圧および正常圧の女性の血圧を低下させました。大豆ナッツ入りの食事は、高血圧の女性のLDL-コレステロールを減少させましたが、正常血圧の女性ではこの影響はみられませんでした 8) 。
大豆タンパク食、大豆ナッツ食の8週間の摂取が、閉経後でメタボリックシンドロームの女性42人の炎症マーカーへの影響を検討したところ、大豆ナッツ摂取により、炎症に関連するマーカー(インターロイキン18)が減少し、血中のNitric Oxideが上昇しました 9) 。
60人の健康な閉経後の女性に大豆ナッツ食を8週間与えたところ、身体のほてりが減少し、更年期における症状の改善がみられました 10) 。
Jou HJらは、健康な更年期の女性96人を、尿中のエクオールの有無を見ることにより、エクオールの出来る人と出来ない人の2つのグループに分けました。そして毎日大豆イソフラボンを摂取させ、6ヵ月間与え続けました。その結果、エクオールを体内でつくることが出来るグループのみ、更年期障害の症状が改善されました。具体的には3か月後に顔面紅潮、過剰発汗が抑えられ、6ヵ月後に動悸、四肢の知覚障害、脱力感が低下し、更年期の症状が改善されました 11) 。
Kohno Mらは138人のボランティアを対象に分離大豆タンパクの構成成分のひとつβコングリシニンの摂取が血清の中性脂肪と内臓脂肪に及ぼす影響を検討しました。βコングリシニンの20週間の摂取はプラセボ(偽薬)に比較して、血清の中性脂肪と内臓脂肪を有意に減少させました 12) 。
LonnerdalBらは健常な貧血症状のない女性に大豆フェリチン(鉄を含むタンパク質)を投与し、大豆フェリチン由来の鉄の吸収を検討しました。その結果鉄がよく吸収されることがわかりました 13) 。
軽度の前立腺ガンの男性に大豆タンパクを投与しましたが、ガンの改善効果は見られませんでした 14) 。
大豆およびその成分において有効性があるとされた項目は、脂質改善、血圧、ホルモン(エストロゲン)代謝、更年期障害症状の改善、腸内環境改善、骨代謝、抗ガン、抗アレルギーなどでした。一方、影響がないと報告されたのは抗ガン(腸、前立腺)、更年期障害症状の改善、カルシウム代謝、骨、血管関連でした。
実験結果の効果の有無の違いは、実験で使用される試験物質の純度や投与量、投与期間に影響を受けます。また、被験者が健常者か否か、疾病の程度、被験者の性別、年齢、国籍にも影響を受けます。さらに、分析方法の精度、測定条件など実験条件の違いも挙げられます。今回紹介した論文は、ある条件下で行った実験の結果です。今後より精度の高い研究手法を用い、数多くの研究を重ねていく必要があります。
分類 | 野菜名 | 主な含有成分 | 生理機能 |
---|---|---|---|
豆類 | 大豆 | VB1、VB2、大豆サポニン、レシチン、イソフラボン(ゲニステイン、ダイゼイン) | 胃ガン予防、前立腺ガン予防、脂質代謝改善(効果あり・なし)、骨代謝(効果あり・なし)、更年期症状改善などエストロゲン関連(効果あり・なし)、血圧低下、グリセミックコントロール、腸内環境改善、炎症関連 |
落花生 | VB1、VB2、VE、ナイアシン | 脂質改善 | |
エンドウ豆 | 食物繊維 | 耐糖能 |