野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
2. 主な野菜の生理機能
b. 葉茎菜類
2009年は、葉茎菜類ではブロッコリーに関する報告が多くみられました。
以前からカリフラワー、ブロッコリー、キャベツ、芽キャベツなどアブラナ科植物に関する研究報告は多く、ガン予防、解毒作用の強化(体内で薬物の代謝に関わる酵素を活性化、この酵素の働きが強いと発ガン物質がすばやく代謝排泄される)が報告されています。抗ガン作用の一部はこれらの野菜に含まれているグルコシノレートが腸内でイソチオシアネートに変化し、これがガン抑制にはたらくと考えられています (Van Poppelら1999)。
アーティチョーク
ボート競技の選手22人を対象にアーティチョークの葉の抽出物を5週間投与しました。その結果、体内の抗酸化能が上昇し、血清コレステロール値が有意に減少しました 1) 。アーティチョークの葉の抽出物を75人の高コレステロール血症者に12週間投与したところ、血清コレステロール値が減少したという報告もあります 2) 。
カリフラワー
1,338人の前立腺ガンの患者を対象に、野菜・果物摂取とガンの関連を調べたところ(食事調査・疫学研究)、悪性度の高い前立腺ガンのリスクは、アブラナ科の野菜、特にブロッコリーとカリフラワーの摂取により、リスクが減る可能性が示唆されました 3) 。
キャベツ
キャベツの摂取は疫学研究などからガン予防効果があることが知られています。キャベツには解毒促進作用のあるグルコシノレート以外にビタミンCとビタミンKが含まれています。ビタミンCはコラーゲンの合成に必須な成分で、抗酸化作用もあります。ビタミンKは血液凝固因子として知られていますが、最近の研究から骨形成促進にも関わっていることがわかりました。
芽キャベツ
芽キャベツの摂取でDNAの損傷が抑制され、ガン予防の可能性が示唆されました 4) 。
クレソン
平均年齢33歳の健康な男女(それぞれ30人、半数は喫煙者)に1日85gの生のクレソンを通常の食事とともに8週間摂取してもらいました。そしてリンパ球のDNAのダメージや血中の抗酸化の指標となる物質を測定した結果、リンパ球のDNAのダメージが軽減され、抗酸化性が上昇しました。特に喫煙者で効果的でした 5) 。
チコリー
健康な45人の被験者にアーティチョークあるいはチコリーを含むスナックバー、これらの野菜が含有するフラクタンを含まないスナックバー(プラセボ)を1日2本(1日7.7gフラクタン摂取に相当)14日間摂取してもらいました。そして糞便中の腸内細菌叢を観察しました。その結果、アーティチョークあるいはチコリーを含むスナックバーを摂取したグループは、プラセボのグループと比較して腸内のビフィズス菌が有意に増加しました 6) 。
平均年齢72歳の閉経後の女性15人にチコリーのオリゴフラクトースとイヌリンの乾燥混合物を6週間摂取してもらいました。その結果、腸からのカルシウムとマグネシウムの吸収および骨代謝マーカーが増加しました 7) 。
ブロッコリー
20人の健康な男性(喫煙者と非喫煙者)にブロッコリーを10日間与え、酸化ストレスマーカーとガンリスクマーカーを調べました。その結果、ブロッコリーの摂取により、喫煙者と非喫煙者ともDNAの損傷が減少しておりました(Riso Pら2009) 8)。
48人のピロリ菌感染症患者に、スルフォラファンの多く含まれるブロッコリースプラウトを、1日あたり70gを8週間与えました。その結果、ピロリ菌便抗原や胃炎症のマーカー等が減少し、ブロッコリースプラウトの摂取は胃粘膜の保護作用を示しました(Yanaka Aら 2009) 9) 。
ブロッコリースプラウトの破砕物に含まれるスルフォラファンを経口投与したところ上気道粘膜における第U相抗酸化酵素群を誘導させました(Riedl MAら) 10) 。
アブラナ科野菜の摂取により、ヒトの腸内細菌叢が変化することが明らかになりました(Li Fら 2009) 11) 。
16人の披験者に、(1)ブロッコリーの有効成分グルコシノレートを高い割合で含むブロッコリーをスープにしたもの、(2)通常のブロッコリーをスープにしたもの、(3)水 を摂取してもらいました。そして6時間後に、胃の粘膜組織の薬物代謝に関わる酵素や細胞周期を調節する遺伝子の発現を調べたところ、(1)は(3)の水の摂取に比べ強く発現していました。しかし、通常のブロッコリーでは変化はありませんでした 12) 。
健康な12人の披験者に150gのブロッコリーを電子レンジで2分間(lightly cooked)あるいは5.5分間調理(fully cooked)したものを摂取してもらいました。その後、24時間採取した尿に含まれるイソチオシアネート代謝産物の濃度を測定したところ、2分調理を摂取したグループの方が、5.5分調理を摂取したグループに比し、イソチオシアネート代謝産物は約3倍高い値を示しました。また、イソチオシアネートの吸収は、牛肉を含んだ食事をしたグループの方が含まない食事をしたグループより約1.3倍高い値を示しました 13) 。
レタス
新鮮なレタスを摂取すると血中の抗酸化活性が高まります。体内の抗酸化活性が高い方が良い理由は、抗酸化性物質は活性酸素を除去する働きがあるからです。活性酸素は体内でガン、動脈硬化をはじめとする生活習慣病の原因のひとつと考えられています。動脈硬化は血管内で活性酸素によりLDL-コレステロールから酸化LDL-コレステロールが生成して発症すると考えられています。また、活性酸素などによるDNAの酸化損傷が発ガンのイニシエーションの一つと考えられています。そのため、活性酸素を除去する働きがある抗酸化性物質は疾病予防に有効と考えられています。
分類 | 野菜名 | 主な含有成分 | 生理機能 |
---|---|---|---|
葉茎菜類 | アスパラガス | カロチン、VB1、VB2、 亜鉛、銅、食物繊維 | 腸内環境改善 |
アーティチョーク | 食物繊維、VC、カリウム | 抗酸化、脂質改善 | |
カリフラワー | VC、VK、イソチオシアナート | エストロゲン関連、ガン予防 | |
キャベツ | VC、VK、イソチオシアナート | エストロゲン関連、ガン予防 | |
ブロッコリー | リン、鉄、カリウム、亜鉛等 VB1、VB2、VC、VE、 ルテイン、イソチオシアナート、 食物繊維 | エストロゲン関連、ガン予防 | |
クレソン | カロチン、VC | 抗酸化、大腸ガン予防 | |
セロリ | カロチン | 胃ガン、大腸ガン予防 | |
チコリー | フラクタン | 腸内環境改善、骨代謝 | |
レタス | カロチン | ガン予防、抗酸化(新鮮なもの) |