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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

j. 葉酸

葉酸は、ビタミンB群の一つであり、抗貧血性因子としてホウレンソウから見出されました。緑黄色野菜、海藻類、レバー、果実類に多く含まれています。果実類ではイチゴ(90μg/100g)やマンゴー(84μg/100g)、クリ(74μg/100g)、オウトウ(38μg/100g)、スモモ(37μg/100g)、キウイフルーツ(36μg/100g)、干しガキ(35μg/100g)などに多く含まれています。また、カンキツ類でも100gあたり20〜30μg含まれており、摂取量を考慮するとカンキツ類も重要な供給源の一つであると考えられています。1976〜80年に実施された第2回全米健康栄養調査(NHANES II)で収集したデータの解析結果から、米国人が食事から摂取している葉酸の供給源としてもっとも重要なものは、オレンジジュースであり、全摂取量の約9.7%をオレンジジュースから摂取していることが示されています 1) 。またオレンジジュースは、葉酸の含量およびその安定性の点からも葉酸の供給源として優れていることが指摘されています 2)

葉酸の成人における一日の栄養所要量は、200μg(許容上限摂取量1,000μg)とされているので、イチゴ200gで、成人の一日の栄養所要量の90%も満たせます。妊婦は所要量に加えて200μg、授乳婦は、80μgの摂取が推奨されています。一方、アメリカ、イギリスでは、妊婦や妊娠を予定している女性は、葉酸を1日400μg摂取する必要があるとしています 3) 。また、葉酸は、無脳症、脳質ヘルニアなど神経管障害(NTD's)の発生防止や再発防止に有効であるとされていること 4) から、受胎前後に十分に葉酸を摂取することにより神経管の発育不全の発生を著しく減少させることができると報告されています 5)

葉酸が欠乏するとアミノ酸の一種であるホモシステインが蓄積し、過剰になると血管壁を損傷して動脈硬化や動脈血栓を促進し、冠動脈が狭められ心筋梗塞や狭心症などの循環器系疾患発症の危険が高まります。高ホモシステイン血症が動脈硬化を起こすのは、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の血管壁への沈着を促進し、血管平滑筋細胞の増殖やコラーゲン繊維の合成の促進、血管内皮細胞の働きの阻害などによると考えられています。葉酸の摂取により、ホモシステインの血中濃度を下げ、動脈硬化や冠動脈疾患などの疾患の予防になります 6)

 ノルウェー国軍に所属する若い男性を対象とした食事介入研究では、5ヶ月間にわたって、果実類、野菜、全粒粉パンの摂取量を増やすようにしたところ、食事からの葉酸の摂取量の増加に伴い、ホモシステインの血中濃度が低下することが示されています 7)

 過去に実施された複数のランダム化比較試験の結果を統合して解析した研究では、脳卒中の病歴がある人、あるいは心臓もしくは腎臓に疾患のある人に葉酸を投与することで、脳卒中のリスクを低減できることが示されています 8)

米国の地域住民1,092人を8年間の追跡調査を行ったところ、ホモシステインの血中濃度が高い(高ホモシステイン血症)と、アルツハイマー病になるリスクが上昇したと報告されました 9) 。高ホモシステイン血症とアルツハイマー病を結びつけるメカニズムとして、高ホモシステイン血症による脳の微小血管障害、脳血管の内皮機能障害、酸化ストレスの増大など、全般的な「脳の老化」によると考えられています。従って、葉酸の摂取によりアルツハイマー病が予防できるのではないかと期待されています。

50歳から70歳の動脈硬化症の患者818名を対象としたランダム化二重盲検比較試験において、1日に葉酸800μgを3年間摂取させたところ、血清中葉酸濃度の上昇、血漿中ホモシステイン濃度の低下とともに加齢による認知機能の低下を抑制したことが報告されています 10) 。また、認知症ではない高齢者1,033名(平均年齢72.2歳)を対象としたコホート試験では、血漿中の葉酸濃度が高い人ほど、全般的認知能力および精神運動速度(精神活動と行動とを調和的に結びつける指標)が高いこと、脳の白質病変が少ないことが報告されており 11) 、葉酸が脳機能にも重要な役割をはたしていることが示されています。

一方、いくつかの疫学調査や臨床研究から、食事からの葉酸の摂取量、血中の葉酸レベルと結腸直腸がんのリスクが負の相関関係にあることが示されています。葉酸による発がんの抑制はDNAの複製を正確に行わせるという機能、あるいはDNAのメチル化を調節する機能に基づくものであると考えられています 12)

(文責 田中敬一)


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