野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
5. 果物の機能性に関する研究動向
h. イチゴのビタミンC高含有品種の育成
イチゴはビタミンC が豊富な果物(農学・栽培学上は「野菜」)です。しかも、通常、生で食べられるため、調理によるビタミンCの損失が少ないという利点があり、その供給源として重要とされています。
イチゴは昭和35年頃から関東以西でいくつかの品種が栽培されるようになりました。その後、イチゴの栽培技術が確立され、生産量が増え、大衆的な果物になりました。イチゴの育種は従来、栽培の適性、収量性、病害抵抗性、外観や食味の良さを主な目的として進められてきました。その結果、‘愛ベリー’、‘女峰’、‘宝玉’、‘とよのか’、‘章姫’、‘とちおとめ’、‘とよのか’などいろいろな品種が開発され、消費量が大きく伸びました。近年、食品の生体調節機能が次々に明らかになり、消費者の健康志向が高まるにつれて、イチゴの育種においてもビタミンC含量が重視されています。
イチゴの品種間でビタミンC含量を比較したいくつかの研究 1), 2), 3), 4), 5), 6), 7) があり、品種による差がかなり大きいことが明らかにされています。曽根らの研究によると、ある年の収穫期間を通じたビタミンC含量の平均値は、主要品種‘とよのか’で100g当たり55.5mg、‘女峰’で62.7mg、‘さちのか’で87.9mgでした 5) 。高いビタミンC含量を持つ‘さちのか’は、(独)九州沖縄農業研究センターにおいて‘とよのか’בアイボリー’により育成された新品種です。従来の主要品種に比べて果実の硬度が高く、日持ち性が良く、糖度が高く、食味は濃厚で極めて優れているという特徴もあります。また、三重県農業技術センターで育成された‘サンチーゴ’もビタミンCを多く含む新品種です 6) 。果実の成熟過程でのビタミンC含量を測定したところ、未熟から適熟に至るまで、いずれの熟度においても‘女峰’ 、‘とよのか’、‘章姫’などの主な既存品種よりもサンチーゴ’の方が高いことがわかり、食味も既存の優良品種を上まわり良好であるとされています 7) 。‘さちのか’などのいくつかのビタミンC高含有品種はこの成分の時期的安定性も高いことから、安定してさらに高いビタミンC含量を持つ品種を育成するための素材として有望です 5) 。
高および低ビタミンC含有品種間の交配組み合わせを用いて、ビタミンC高含有系統の効率的な選抜法が検討されるとともに、イチゴ果実のビタミンC含量と糖組成との関係が明らかにされました 8) 。その研究は糖含量が高く、高ビタミンC含量を有する品種の育成が十分可能であることを示唆しており、今後の研究の進展により‘さちのか’を超える、おいしくてビタミンCの豊富な品種が開発されることは大いに期待できます。