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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

e. カンキツの循環器系疾患の予防作用

みかんとレモン

循環器系疾患の多くは、アテローム性動脈硬化が原因となります。アテロームとは動脈血管壁の内部にたまった脂肪の塊で、アテローム部分は動脈が固く狭くなっており非常に脆くなっています。この部分が壊れ、アテロームが血液に流れ出すと血液が凝固し血栓となります。心筋梗塞や脳梗塞の多くは、アテローム性動脈硬化がもとで生じた血栓による梗塞が原因となっています。

 果物・野菜の摂取が心筋梗塞や脳梗塞といった循環器系疾患を予防することが、多くの疫学研究において示されています。これらの多くの疫学研究を総合的に解析し評価した研究(メタアナリシス)がいくつか報告されています。最近の報告として、Dauchetらが9つのコホート研究についてメタアナリシスを行っています 1) 。合計で男性91,379名、女性129,701名からなる集団で、5,007名の冠動脈性心疾患の事例がありました。解析の結果、冠動脈性心疾患のリスクは、果物の摂取が1日に1皿分(106g)増加すると、相対危険度(リスクが発生する割合)は7%ずつ減少することが分かりました。果物・野菜を合わせた場合には、4%ずつの減少となり、野菜のみだと効果が見られませんでした。

脳卒中の予防に関しては、Dauchetらは、7つのコホート研究についてのメタアナリシスの結果を報告しています 2) 。解析は、男性90,513人、女性141,536人について行われ、2,955人の脳卒中の事例が見られました。脳卒中のリスクは、1日の摂取が1皿(106g)増加すると、果物のみの場合、相対危険度は11%減少し、果物と野菜については5%減少していました。果物または果物・野菜の摂取は、脳卒中の相対危険度が線形の用量反応関係を示し、多く食べるほど脳卒中のリスクが下がることが示されました。ただ、野菜については、相対危険度が3%減少していましたが、統計的には意味のある差ではありませんでした。Heらも8つのコホート研究のメタアナリシスから、果物・野菜の摂取頻度との関係を評価しています 3) 。解析は257,551名について行われ、その内4,917名の脳卒中の事例がありました。果物と野菜は区別せずに、合わせた摂取量(1サービング:果物80g、野菜77g)での検討を行っており、3サービング未満/日のグループと比較した場合、脳卒中の相対危険度は、3〜5サービング/日のグループでは0.89、5サービング/日のグループでは0.74でした。脳卒中には虚血性と出血性がありますが、そのどちらのリスクも下げるとしています。

このように果物・野菜の摂取は、虚血性の循環器疾患の予防に有効だということが、疫学研究により示されました。多くの疫学研究は、種類別での解析は示されていなかったり、カンキツ類と他の果実といった大まかな区分での解析しかなかったりと、果物の種類による効果の違いはさだかではありません。野菜や果物の種類を9つのグループ(このうち果物に関してはカンキツ類とその他の果物の2グループ)に分けて検討した結果、カンキツ類は統計的に意味のある差であったが、他のグループは予防的な傾向を示すものの統計的に意味のある差ではなかったという報告があります 4) 。日本も含め北半球の、米国,カナダ、EUでは、カンキツ類の摂取比率が最も高く3〜5割、ついでリンゴ、バナナ、ブドウで、これらの4品目で残りを占めています。カンキツの摂取量が多いことから、効果が検出されやすかったためかもしれません。

 特定の果物のみが効果を持つという考えにとらわれない方が良いでしょうが、果物のどのような特性が予防効果につながるのかという研究は重要です。カンキツは生食あるいは果汁として消費される生産量が多いので,ヘスペリジンやナリンギンといったフラボノイドを多量に摂取しています。多い場合には、このフラボノイドを1日に100mgのオーダーで摂取していることになります。フラボノイドにはコレステロール代謝、脂質代謝の改善作用に関して、病態モデル動物を対象にした研究があります 5), 6), 7), 8) 。カンキツのフラボノイドだけではなくパームオイルの成分であるトコトリエノールを加えたサプリメントですが、高コレステロール症患者に摂取させる無作為比較試験で、総コレステロール、LDL、アポリポプロテインB、トリグリセリドを有意に下げるなど、効果的に作用した例もあります 9) 。動脈硬化の発症・進行には酸化ストレスが関与しています。果物や野菜には、カロテノイドやポリフェノールなどの抗酸化成分が含まれているので、これらの成分の摂取と疾病のリスクに関しては、多くの疫学研究が行われています 10), 11) 。動物や人での介入試験で効果的に作用することが知られていますが、残念ながらカロテノイドの摂取と予防効果に関しては必ずしも肯定的な結果だけではなく、またポリフェノールの場合も、予防効果に関して一貫性のある結論は出ていません。成分の種類により、また対象とする疾病や症状により異なる結論が出るのかもしれません。季節の果物を、適切な量食べることが重要と言えるのではないでしょうか。

 循環器系疾患に関して、果物摂取が予防的に働くことは間違いないものと考えられます。米国の「ファイブ・ア・デイ運動」では、果物と野菜を1日5サービング以上食べることを推奨しています。また、日本においては「毎日果物200g運動」が展開されていますが、これらの運動が科学的に裏付けられたものと考えてよいでしょう。

(文責 小川一紀)


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