野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
1. 野菜等個別成分のヒトにおける機能性研究
b. 野菜等に含まれる機能性成分の研究結果の現状
野菜や果物の摂取と疾病の関係を調査した多くの科学論文は、野菜等の摂取が発がんや心臓血管系の病気のリスク低減効果があることを示唆しています(1)。他方、発がんや心臓血管系の発病には、私たちの体を構成している成分(脂質、タンパク質、DNA)の酸化損傷(いわゆるさびのような現象)が関連することも基礎的研究から示されています(2)。このような背景があり、野菜や果物に含まれる成分の中でも、特に抗酸化作用(酸化損傷を抑制する働き)を有するカロテノイドやフラボノイド等の機能性(疾病のリスク低減作用)が注目されています。
野菜等の成分としてよく知られているカロテノイドやフラボノイドは、多くの化合物の総称です。カロテノイドには、体内でビタミンAになるα-カロテンやβ-カロテン、ビタミンAにはならないリコペン、ゼアキサンチン、ルテインなどがあります。また、フラボノイドにもケルセチン、ケンフェロール、イソフラボン、カテキンなど多くの種類があります。野菜の摂取量が多い人、血液中のβ-カロテン濃度が高い人では肺がんになりにくいという多くの調査結果に基づき、β-カロテンに関する臨床試験が特に多く行われています。その研究の中で、野菜でなくβ-カロテンそのものを被験者に摂取させ、肺がんとの関連を調べた試験では、β-カロテン摂取による肺がんの抑制効果は認められていません(3)。他のカロテノイドについて、トマトに含まれるリコペンでは前立腺がん(4)、ほうれん草などに含まれるルテインやゼアキサンチンでは目の疾患(5)などの関連が検討されています。また、大豆に含まれるイソフラボンでは骨粗鬆症との関連(6)、アブラナ科の野菜に含まれるグルコシノレートでは発がん物質等の代謝を含めた解毒機能に対する影響(7)、植物油に含まれる植物ステロールでは血清コレステロール濃度に対する作用(8)、大豆タンパク質やニンニク抽出物では心臓血管系の疾病の生体指標に対する作用(9,10)などがそれぞれ検討されています。
これまで行われた野菜成分の機能性に関する研究報告は、有効性があったという報告となかったという報告の両方があります(図2)。野菜等に含まれる成分の最近の研究の特徴としては、大豆・イソフラボン関連が特に多くなっています。イソフラボンやカロテノイドについては食材としてだけでなく、特定成分を利用した研究もあります。また、ヒトにおける体内吸収を評価した研究も多くあります。研究は進歩していますが、特定成分と病気との関連の検討までには至っていないものがほとんどです。このように、野菜等に含まれる個々の成分に関する機能性については、未だ一定した見解が得られていないのが現状であり、今後のさらなる検討が期待されています。
図2
バイオアベイラビリティ:生体内利用率(有効性の判断がつかないもの)