野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向
5. 果物の機能性に関する研究動向
l. ケルセチンの健康機能
ケルセチンは野菜や果物に最も広く存在するフラボノイドであり、タマネギの黄色色素としてよく知られています。わが国におけるケルセチンの主要な供給源はタマネギ(特に外皮に多い)ですが、そのほか、リンゴ、サニーレタス、ブロッコリー、モロヘイヤなどからも比較的多く摂取されています。
ポリフェノール類の中の大きなグループであるフラボノイドは植物界に5,000種以上も存在することが知られ、近年の多くの研究で、抗酸化作用をはじめ、がん細胞増殖阻害作用、抗炎症作用など様々な生理機能を持つことがわかってきました 1), 2) 。ケルセチンはフラボノイドの中でも特に強い抗酸化活性を示すため、活性酸素による酸化ストレスが関与する、がん、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の予防に重要な役割を果たすものと期待されています 3), 4), 5), 6), 7) 。これまでに、動脈硬化の初期病変であるLDL(低比重リポタンパク)の酸化を抑制することが明らかになっています 7) 。また、糖尿病モデルラットを用いた実験で、タマネギの長期間摂取は生体内の酸化ストレスを軽減する効果や血糖値を下げる効果があることが見いだされています 8)。
体内でのケルセチンの吸収・代謝についての研究も多く、そのメカニズムがかなり明らかになっています 9), 10), 11), 12) 。ケルセチンは植物体中では通常、糖が結合した形(配糖体)で存在しており、その組成は野菜や果物の種類によって異なります。ケルセチンの配糖体のうち、グルコシド(グルコース単体が結合したもの)は非グルコシドに比べて吸収されやすいことがわかりました 13) 。ケルセチングルコシドを豊富に含む食品はタマネギです。タマネギはいろいろな料理に使える消費量の多い野菜であることに加え、吸収性の良いケルセチングルコシドを含むため、特に優れたケルセチンの供給源であると言えます。
ケルセチンはまた、油と一緒に摂取すると吸収効率が高まることが報告されています 14), 15) 。そのため、ケルセチンを体内で効率的に利用する観点から、ケルセチンを含む野菜・果物は植物油、乳製品、肉類、マヨネーズなどの油脂食品を用いて調理したり、あるいは油脂食品と一緒に食べるとよいでしょう。
ケルセチンに関する研究が進展してきたとはいえ、ヒトの健康におけるケルセチンの役割に関する疫学研究は少なく、その疾病予防効果はまだ実証されていません。実際の食事では、多数の食品成分が存在する複合系であるため、ケルセチンと他の食品成分との相互作用が機能の発現に影響すると考えられます。また、長期的なケルセチンの過剰摂取は健康に何らかの悪影響を与える可能性も示唆されています。今後のさらなる研究によって、ケルセチンのプラス効果を最大限に利用するための最適摂取量を明らかにしていく必要があります。