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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

b. 果実由来発がん抑制成分の作用機構

ある種の化学物質(発がん物質)で人為的にがんを発生させる事ができます。これを化学発がんといいますが、正常細胞が化学物質により不可逆的に障害を受け、潜在的な腫瘍細胞に変化するイニシエーション段階と、潜在的腫瘍細胞が増殖し最終的に、がんとなるプロモーション段階からなる、化学発がん二段階仮説が考えられました。発がんのプロモーション作用だけでは発がん作用がありません。

化学物質の他にも、紫外線、ウイルスが、イニシエーション段階に関わり、遺伝子に障害を与えることが分かっています。プロモーション段階では、細胞が無秩序に分裂を開始し増殖することで、がんになります。近年の分子生物学の進展により、細胞内では、複雑な細胞内シグナル伝達と遺伝子発現のネットワークができていることが明らかになってきました。複数の遺伝子が順次変化することで、無秩序な分裂が起き発がんに至るという多段階発がん説が考えられています。DNAの中には、多数のがん遺伝子とがん抑制遺伝子が存在しており、そのバランスが崩れることで発がんに至るのです。

がん予防について、ヒトで効果があるかどうかを科学的に確かめるためには、動物のように人為的にがんを起こす事はできないため、数万人を対象に自然に発症した人数を調査しなければなりません。たとえ肺がんになるリスクが高い喫煙者でも同じです。喫煙による肺がんは、酸化ストレスが関係していると考えられ、抗酸化作用がある食品成分のβ-カロテン(30mg)とトコフェロールを含むサプリメントを喫煙者あるいは喫煙経験者に摂ってもらい、予防効果があるかどうかを確かめる研究が行われたことがあります。このときの調査では約18,000人を対象にしました。この時の肺がんの発生数は、687 人でした。この研究は、2グループに分けて、サプリメントと成分を含まない偽物を摂取しましたが、サプリメント摂取で喫煙者の発がんの危険性が、当初の予想に反して高まったことから途中で中止になりました。

ですから果物あるいはサプリメントを食べて、発がん予防効果があるかどうかを実際に人で確かめるのは難しいのです。したがって、発がん予防作用は、動物での発がん抑制作用や、がん細胞を対象にした発がん抑制研究で推察することになります。最近は、発がんに密接に関連した分子生化学的現象に着目し、それに対する作用機構が詳細に検討されています。しかし、現実にはヒトでの、確証は得られていません。がん予防を目的に、サプリメントや健康食品に頼ることは勧められない、がん予防の基本は、禁煙、肥満の予防、適切な運動、バランスのとれた食事によるというのが科学的な結論です。そして、果物はバランスのとれた食生活に欠かせません。

果物によるがん予防効果は、現時点では「おそらく確実」と専門家は判断しています。以下に、予防効果の理由について、現在考えられている機構を簡単に紹介します。

(1) 酸化ストレスの緩和

フリーラジカルなどによるDNAの酸化損傷が発がんのイニシエーションの一つと考えられ、酸化ストレスの軽減作用が発がん抑制機構の一つです。正常な細胞でも常に活性酸素を発生しています。通常は速やかに消去する機能を備えています。他方、炎症や、喫煙などでは過剰な活性酸素が発生します。この必要外の活性酸素が、DNA損傷に大きく関わると考えられます。この酸化ストレスの軽減には、活性酸素やフリーラジカルなどを消去すればよいことから、フラボノイド、アントシアニン、カテキンなどのポリフェノール、カロテノイド、アスコルビン酸など抗酸化能力をもつ物質が有効であると考えられるのです。

(2) 異物代謝第U相酵素群の活性化

体外から食事や呼吸で取り込まれた種々の化学物質は、異物(あるいは薬物)代謝第T相酵素により、水酸化など極性が高い構造に変換され、異物代謝第U相酵素によりグルクロン酸などが結合し、極性が高められ水溶性となり体外に排泄される経路をたどります。第T相酵素は単に極性化を行うだけで、毒性の有無を判断している訳ではありません。たまたま変換した物質が毒性を持つ事もあり得ます。

原発がん物質は、第T相酵素により発がん物質に変換されます。この発がん物質はさらに第U相酵素の働きで代謝排泄されます。第T相酵素を抑えてしまうと、原がん物質が貯まってしまいますから、第U相酵素のみを強く働かせれば、発がん物質の体内での滞留が短くなり、発がんの危険が減少するという理屈になります。

発がん抑制成分にはこの第U相酵素を活性化するものが少なくありません。

(3) COX-2の活性抑制・産生抑制

プロスタグランジン類は、種類によって様々な生理作用を有しており、重要な生体物質です。プロスタグランジンはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によってアラキドン酸という不飽和脂肪酸から合成されます。COX-1とCOX-2の2種類があり、COX-1は常に働いて、胃腸の保護作用に関与すると考えられています。

一方、炎症部位で発現するCOX-2は、プロスタグランジンE2(PGE2)を生産し、炎症を増強する作用があります。同時に、細胞増殖、血管新生、マトリックスメタロプロテアーゼ産生等の促進、炎症誘導、アポトーシスの抑制などの作用を有しており、内因性の重要な発がん物質となります。慢性肝炎からのがん化、アスベスト吸入による肺がんは、長期間にわたる炎症反応ががん化に関与すると考えられています。

したがって、COX-2の作用を阻害する物質はPGE2の産生を抑えることで、この物質が起因となって起こる発がんの抑制につながると考えられています。鎮痛剤のアスピリンは、COXを阻害することで、炎症に伴う痛みを軽減します。ただ、COX-1とCOX-2を同時に阻害するため胃腸障害を起こしたりします。抗炎症薬は、COX-2のみを選択的に阻害する、あるいはCOX-2 産生を抑制することが望ましいのです。がん細胞を用いた試験管内実験では、果実由来の成分では、ポンシリン、アピゲニン、ルテオリン、ケルセチン、レスベラトロールなどのポリフェノール類に、これらの作用があることが知られています。

(4)一酸化窒素の産生抑制

一酸化窒素は、細胞の情報伝達物質で重要な機能を持っています。しかし、炎症部位で発生する過剰な一酸化窒素はさらに活性の強い活性酸素に変化するため、内因性発がん物質となります。生体内でその産生にかかわるiNOSという酵素の誘導抑制も発がん抑制メカニズムの一つです。果実由来の成分では、ポンシリン、ノビレチン、プロシアニジン、レスベラトロールなどのポリフェノール類、オーラプテンなどのクマリン類に、抑制作用があることが知られています。

(5) そのほかの発がん抑制機構

がん細胞が、活発な増殖を維持するためには酸素が必要で、そのためにがん組織に血管が必要となります。この血管新生を抑制することで、がん細胞の増殖を阻止することができると考えられます。がん組織は、他の部位に転移したり正常な組織に浸潤したりして増殖します。この転移・浸潤にはマトリックスメタロプロテアーゼが働くので、転移・浸潤に関わるマトリクスプロテアーゼ類を制御することで発がんの抑制を可能にすると考えられています。

参考文献
1)笹月建彦・野田哲生編 (2006) 発がんの分子機構と防御(がん研究の今)、東京大学出版会.

(文責 小川一紀)


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