野菜等健康食生活協議会事務局は2013年3月31日をもちまして解散いたしました。このコンテンツは、それまでのアーガイブになります。


現在表示しているページ
HOME >疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係 >野菜摂取と健康の関係 >2008年の研究動向の特徴と注目論文

疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係

1. 野菜摂取と健康の関係

a. 2009年の研究動向の特徴と注目論文

2009年の疫学研究の中から1)第5回国際ベジタリアン栄養学会議の報告、2)日本人に関する研究として食事バランスガイドと寿命を取り上げてみました。

1)第5回国際ベジタリアン栄養学会議

2008年3月に米国ロマリンダ大学を会場として第5回国際ベジタリアン栄養学会議が開催されました。その報告書が2009年の「American Journal of Clinical Nutrition」の別冊として発表されました 1) 。全体の構成は

  1. ベジタリアン食や植物性食品を基本とする食事と健康状態の関連
  2. 心臓病、糖尿病、がんなどの慢性疾患予防におけるベジタリアン食や植物性食品を基本とする食事の効果
  3. ベジタリアン食や植物性食品を基本とする食事と環境

です。発表論文は28編でありますが、植物性食品を摂取することと健康の関連としては、これらの食品の利点のみを挙げているわけではありません。ベジタリアンの食事で不足する動物性食品が主たる給源となる栄養素に関しての問題も取り上げています。ベジタリアンの中では厳密に植物性食品のみを摂取するベーガン、乳製品や卵は利用するラクトベジタリアンやオボベジタリアンなどによって栄養問題は異なっています。報告書では乳製品や大豆製品などの役割について報告されています。また、n-3系脂肪酸をどのように供給するかも課題とされています。

他方、本会議ではベジタリアンや植物性食品の有用性に関する知見が広く明らかに成ってきている現代においてその成果を栄養政策や栄養教育にどのように生かしていくかが重要であるとしています。とりわけ、これまでの栄養学の研究が個別の栄養素に偏りがちでありましたが、栄養政策や栄養教育を考える場合には食品としてみる重要性が強調されています。食品の機能は多成分間の共同や相乗作用があることを重視する必要性が指摘されていることは重要です。開催国が米国である関係で、とくに米国の食事指針などへの反映が提起されています。すなわち、米国ではDietary Reference Intakes(DRIs)が発表されていますが、様々な栄養政策がこれに基づいて策定されています。食事指針(US  Dietary Guideline)にもDRIsがあまり強調されると、食品に焦点をあてたガイドラインにならなくなると懸念が示されていますが、このことは私たち日本人にも重要な課題です。

野菜の摂取と健康状態に関する研究としては

  1. 米国の大規模コホート:Women’s Healthy Eating and Living Studyのサブグループを対象として、乳がんの初期ステージの治療を受けた女性について、野菜、果物の摂取量を増やすことの効果を確認しています。
  2. 子どもの肥満と食事パターンをみると、果物、野菜、穀類、豆類などのベジタリアンの基本となる食品群と食物繊維の摂取と子どもの肥満の関係を検討されましたが、明らかな関係は確認できませんでいした。しかし、この研究を行った研究者は、この結果は子どもの肥満と食生活の関係についての研究が十分になく、子どもの肥満予防に植物性食品の重要性を否定するものではないと述べています。また、米国では現在、子どもたちの食生活は食事指針に合致しておらず、今後の食育の重要性はかわるものではないと述べています。この指摘は我々日本人の食生活にも言えるのではないでしょうか。
  3. ベジタリアンの健康状態をこれまでの研究でみると、ベジタリアンは心臓病の罹患率が低いことは一貫しています。それは血中のLDL-コレステロールが低いことと関係していると考えられます。イギリスのベジタリアンのデータでは高血圧、糖尿病、肥満、がんとくに大腸がんの罹患率や寿命では必ずしも明確な結果は得られていません。ベジタリアンには様々なタイプがあり、それらが厳密に分けられていないことが原因ではないかと考えられます。
  4. イギリスで行われた大規模なコホート研究では、訂正死亡率をベジタリアンと非ベジタリアンで比較しても差は見られていません。しかし、ベジタリアンと肉食者とを比較すると、虚血性心疾患による死亡率はベジタリアンでは低くなることが示されています。全ての腫瘍による死亡率では、肉食者に比べてベジタリアンでは低くなることが確認されています。

このようにベジタリアンの食生活と健康の関連は多くの注目を集めていますが、その結果は一貫したものではありません。ベジタリアンには様々なタイプがあり、それが厳密に区別されてデータが解析されているとは限りません。他方、厳密なベジタリアンでは植物性食品だけでは栄養素補給が十分ではないという問題もあります。今後のさらなる研究をする価値のある対象者と考えられます。

2)日本人に関する研究:食事バランスガイドと死亡率

2009年の日本人に関する研究論文の中で、とくに興味の深いのは食事バランスガイドを遵守することが健康状態とどのように関わるかを調査した論文です 2)

調査の対象者は高山市に住む、男性と女性です。死亡者の集計と、食事調査と食事バランスガイドの遵守状況が調査されました。その結果、女性の間では、食事バランスガイドの実行度合いが高いグループでは最も低いグループに対して、死亡率が低く、心臓病やがん以外の死亡率、心臓病による死亡率もひくくなっています。しかし、男性では有意な影響は見られませんでした。

この研究から女性では食事バランスガイドを守ることは、死亡率の低下につながります。
男性については効果が確認できなませんでしたが、今後も男女を含めてさらに研究を進めてほしい課題です。

(文責 池上幸江)


↑ PageTopへ ↑

a. 2009年の研究の傾向と注目論文 |  b. 全般的な健康状態と野菜摂取の関係 |  c. がん発症と野菜摂取の関係 |  d. 心臓病と野菜摂取の関係 |  e. 血圧と野菜摂取の関係 |  f. メタボリックシンドローム・肥満と野菜摂取の関係 |  g. まとめ

Copyright(c) v350f200.com All Rights Reserved.